事故・送検報道「無資格者にクレーン運転させて送検 荷の落下労災が発生」

事故・送検報道

2021年4月
事故や送検された報道について、類似事例を交えて、気を付けたいポイントを解説します。

労働基準監督署は、平成31年2月に発生した労働災害に関連して、建設業・・と同社職長を労働安全衛生法第61条(就業制限)違反の容疑で地検に書類送検した。無資格者を吊り上げ荷重が1トン以上の移動式クレーンの玉掛け作業に従事させた疑い。
労災は、建設工事現場で発生した。労働者に移動式クレーンから落下した荷が当たり、死亡している。

引用元:労働新聞

移動式クレーンで荷を吊り上げている際、つり荷が落ちてきて当たった死亡事故です。
事故の詳細が掲載されていないため、 類似事例で、気を付けたいポイントを解説します。

クレーンってなに?

クレーンとは、物を吊り上げ、水平移動させる機械。
移動式クレーンは移動するクレーンであり、クレーン車と言われたりします。建設現場などでよく見かける機械です。
クレーンで荷を吊り上げるため、荷にワイヤーを通してフックに引っ掛けて吊り上げる。
ちなみに、フックにワイヤーなどを引っ掛ける作業を「玉掛け」(たまかけ)と言います。










なぜ吊り荷は落ちたのか?

詳細が掲載されていないので、類似事例としてよくあるのは
  ○長いもの、薄い板をつっていて、荷がたわんで外れた。
  ○複数の荷を積んだ状態でつっていたため、上の荷がずれ落ちた。
  ○玉掛用具のクランプが掛かりが浅くて外れた、同様にハッカーの掛かりが浅くて外れた。
  ○荷をぶつけて、 荷が振れた拍子にフックから外れ落ちた。
これらが単独か複数重なって発生することが多いです。

どうすれば良いのか?

つり荷には出来る限り近づかないことが賢明です。
また、運転する方は人のいる箇所の上方・近傍は通過させないこと。荷をぶつけたり、急激な運転動作をしない。
玉掛する人は確実な固縛が求められます。

法令ではどうなっているか?

複数の荷で結束していないなど、荷のつり方によって立ち入り禁止が義務付けられています

(立入禁止)第七十四条
 事業者は、移動式クレーンに係る作業を行うときは、当該移動式クレーンの上部旋回体と接触することにより労働者に危険が生ずるおそれのある箇所に労働者を立ち入らせてはならない。
第七十四条の二
 事業者は、移動式クレーンに係る作業を行う場合であつて、次の各号のいずれかに該当するときは、つり上げられている荷(第六号の場合にあつては、つり具を含む。)の下に労働者を立ち入らせてはならない。
 ハッカーを用いて玉掛けをした荷がつり上げられているとき。
 つりクランプ一個を用いて玉掛けをした荷がつり上げられているとき。
 ワイヤロープ等を用いて一箇所に玉掛けをした荷がつり上げられているとき(当該荷に設けられた穴又はアイボルトにワイヤロープ等を通して玉掛けをしている場合を除く。)。
 複数の荷が一度につり上げられている場合であつて、当該複数の荷が結束され、箱に入れられる等により固定されていないとき。
 磁力又は陰圧により吸着させるつり具又は玉掛用具を用いて玉掛けをした荷がつり上げられているとき。
 動力下降以外の方法により荷又はつり具を下降させるとき。

引用元:e-GOV法令検索

また、荷の直下だけでなく、荷が振れる·回転する範囲も対象となります。

「つり上げられている荷の下」とは、荷の直下及び荷が振れ、又は回転するおそれがある場 合のその直下をいうこと(平四·八·二四 基発第四八○号)抜粋

引用元:厚生労働省

ただし、実際の災害では立ち入り禁止範囲より外側で事故に会っていることが多いです。 特に複数の荷がずれ落ちた場合などは、角度がついて斜めに落ちてきます。そうすると投影範囲まで荷がくることになります。しかも、投影範囲は荷が高ければ高いほど広範囲になるため、なるべく高い位置でつらないことも重要です。


資格に関しては、運転も玉掛けも必要ですが、今回は解説を省きます。

なぜ、しなかったのか?

荷を落とすことは稀です。
毎回荷は落ちていない。むしろ、落としたことがない。
実際は重い荷、高い位置、外れやすい玉掛けなど危険は高いのですが、荷を落とすことは稀だけに、慣れにより、危険を危険と認識できなくなっていきます。
過去大丈夫だったので、今回も大丈夫である。「正常性バイアス」ともいえる心理が働きます。
そして、リスクが大きいほど、リスクがないものと認識をしようともします。
慣れることが全て悪いことでは ありません。慣れることで作業を効率的に進められ熟練していくということです。
ただ、作業に慣れるにつれ、危険認識が薄くなっていくこともまた事実です。たまには振り返って、危険意識が低下していることを認識することが重要です。

このリスクをどう見るか?

実際には複数の荷、 固縛していない、つり荷下に立ち入らせている、荷が何かに当たり振れだしたなど、いくつもの要素がつながったとき、事故は発生します。

例えば
・複数の荷をつる機会が3回に1回
・荷を固縛しない機会が2回に1回
・つり荷下で作業する機会が3回に1回
・荷が何かに当たる機会が20回に1回
1/3 x 1/2 × 1/3 x 1/20 = 1/360

 360 回に一度はめぐり合わせるかもしれません。これを低いと見るか、高いと見るかが 事故に会う会わないの境目だと思います。

まとめ

特につり荷の直下だけでなく、投影範囲も危険であると認識し、退避を心がけましょう。
逆に運転する側になったときは、人の直上、投影範囲はなるべく通過させず、通過させるな ら退避を促すようにしましょう。
被害者にも加害者にもならないようにお気を付けください。

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