事故・送検報道「ローリングタワーごと転倒し骨髄損傷、元請と下請を送検」

事故・送検報道

事故・送検報道「ローリングタワーごと転倒し骨髄損傷、元請と下請を送検」

2021年4月

労働基準監督署は、危険対策を怠ったとして、元請である()と同社施工管理担当者を労働安全衛生法第31条(注文者の講ずべき措置)違反、2次下請である()と同社現場リーダーを同法第20条(事業者の講ずべき措置等)違反で地検に書類送検した。同現場リーダーが乗っていたローリングタワーが転倒し、脊髄損傷のケガを負っている。
労働災害は令和元年8月22日、商業ビル新築工事現場で発生した。同現場リーダーが高さ約4メートルのローリングタワーを使用して外壁パネルを取り付けていたところ、ローリングタワーごと転倒した。通常は突っ張り棒のような補強材を天井との間に挟むが、災害時は効率のために取り外したまま作業していた。元請と下請はともに作業時の点検を怠った疑い。
同労基署によると、元請は違反の理由として、「下請がやっておけば良いと思った」と話しているという。

引用元:労働新聞

ローリングタワーって何?

移動式足場とも言います。
足場とは、高いところで作業を行う人の足がかりのために、仮に組立てた構造物のこと。鋼製のパイプなどを使って組立てる。
移動式足場は足場の足元に回転するキャスターを付け、移動できるようにしたものです。

なぜ転倒した?

詳細が掲載されていないので、仮定の移動式足場で考えます。

高さ4mの 足場(だいたい80kgくらい)、転倒支点(図の三角形)を挟んで、左側に足場の自重と乗っている作業者の重さが掛かる。右側には作業のため作業者が右方向に力をかけていたとか、乗り移ろうとしていたとかで、右方向に力を掛けたとする。
転倒支点を挟んで、左側のモーメント(青い回転矢印)と右側のモーメント(オレンジ回転矢印)が発生する。それぞれの大きさは、かかっている重さ・力と転倒支点までの距離の掛け算(プラス加速度)。左側は重心までの距離に対して、右側は足場の高い距離がかかるので、小さな力でも大きなモーメントとなる。
左と右とのモーメントが、右が多くなればそのまま転倒となります。
例えば
 左:(足場80kg+作業者70kg×3名)×重心までの距離0.6m=174 (・・×重力加速度)
 右:(作業者の力20kg×3名)×作業者の位置4m=240       (・・×加速度)
わずか20kgの力をかけただけで、転倒となります。(反力など省略)

特に右側は作業者の位置が高ければ高いほど、右側のモーメントが大きくなる。

足場は高いほど不安定である理由です。
まして、移動式なので回転するキャスターをつけていているので、ブレーキの利きがあまかったら。わずかでも転倒します。

どうすれば良いのか?

壁つなぎや控え、控え枠を設けて、 転倒しないようにします。

記事では天井に向かって突っ張る棒を設けていたようですね。

移動式足場の高さと幅の参考としては、「移動式足場の安全基準に関する技術上の指針」が参考になります。指針の式では、一般的な1.2m幅の足場材では高さは4.24m以下となります。
とは言え、上に記載したよう転倒はしやすいため、壁つなぎ、控え、控え枠を設けましょう。

移動式足場の安全基準に関する技術上の指針(抜粋)
3-1  高さ及び脚輪間隔 
   3-1-1  脚輪の下端から作業床までの高さと、移動式足場の外かくを形成する脚輪の主軸間隔とは、次の式によること。ただし、移動式足場に壁つなぎ又は控を設けた場合は、この限りでないこと。
      H≦7.7L-5
        この式においてH及びLは、それぞれ次の値を表すものとする。
        H  脚輪の下端から作業床までの高さ(単位  m)
        L  脚輪の主軸間隔(単位  m)

引用元:中災防法令通達検索

法令ではどうする必要があるか?

(鋼管足場)第五百七十条
 事業者は、鋼管足場については、次に定めるところに適合したものでなければ使用してはならない。
一 足場(脚輪を取り付けた移動式足場を除く。)の脚部には、足場の滑動又は沈下を防止するため、ベース金具を用い、かつ、敷板、敷角等を用い、根がらみを設ける等の措置を講ずること。
二 脚輪を取り付けた移動式足場にあつては、不意に移動することを防止するため、ブレーキ、歯止め等で脚輪を確実に固定させ、足場の一部を堅固な建設物に固定させる等の措置を講ずること。
三 鋼管の接続部又は交差部は、これに適合した附属金具を用いて、確実に接続し、又は緊結すること。
四 筋かいで補強すること。
五 一側足場、本足場又は張出し足場であるものにあつては、次に定めるところにより、壁つなぎ又は控えを設けること。
イ 間隔は、次の表の上欄に掲げる鋼管足場の種類に応じ、それぞれ同表の下欄に掲げる値以下とすること。
鋼管足場の種類間隔(単位メートル) 垂直方向 水平方向
単管足場 五 五・五
わく組足場(高さが五メートル未満のものを除く。) 九 八
ロ 鋼管、丸太等の材料を用いて、堅固なものとすること。
ハ 引張材と圧縮材とで構成されているものであるときは、引張材と圧縮材との間隔は、一メートル以内とすること。
六 架空電路に近接して足場を設けるときは、架空電路を移設し、架空電路に絶縁用防護具を装着する等架空電路との接触を防止するための措置を講ずること。
2 前条第三項の規定は、前項第五号の規定の適用について、準用する。この場合において、前条第三項中「第一項第六号」とあるのは、「第五百七十条第一項第五号」と読み替えるものとする。

引用元:e-Gov法令検索

(点検)第五百六十七条
 事業者は、足場(つり足場を除く。)における作業を行うときは、その日の作業を開始する前に、作業を行う箇所に設けた足場用墜落防止設備の取り外し及び脱落の有無について点検し、異常を認めたときは、直ちに補修しなければならない。
2 事業者は、強風、大雨、大雪等の悪天候若しくは中震以上の地震又は足場の組立て、一部解体若しくは変更の後において、足場における作業を行うときは、作業を開始する前に、次の事項について、点検し、異常を認めたときは、直ちに補修しなければならない。
一 床材の損傷、取付け及び掛渡しの状態
二 建地、布、腕木等の緊結部、接続部及び取付部の緩みの状態
三 緊結材及び緊結金具の損傷及び腐食の状態
四 足場用墜落防止設備の取り外し及び脱落の有無
五 幅木等の取付状態及び取り外しの有無
六 脚部の沈下及び滑動の状態
七 筋かい、控え、壁つなぎ等の補強材の取付状態及び取り外しの有無
八 建地、布及び腕木の損傷の有無
九 突りようとつり索との取付部の状態及びつり装置の歯止めの機能
3 事業者は、前項の点検を行つたときは、次の事項を記録し、足場を使用する作業を行う仕事が終了するまでの間、これを保存しなければならない。
一 当該点検の結果
二 前号の結果に基づいて補修等の措置を講じた場合にあつては、当該措置の内容

引用元:e-Gov法令検索

(足場についての措置)第六百五十五条
 注文者は、法第三十一条第一項の場合において、請負人の労働者に、足場を使用させるときは、当該足場について、次の措置を講じなければならない。
一 構造及び材料に応じて、作業床の最大積載荷重を定め、かつ、これを足場の見やすい場所に表示すること。
二 強風、大雨、大雪等の悪天候若しくは中震以上の地震又は足場の組立て、一部解体若しくは変更の後においては、足場における作業を開始する前に、次の事項について点検し、危険のおそれがあるときは、速やかに修理すること。
省略
三 前二号に定めるもののほか、法第四十二条の規定に基づき厚生労働大臣が定める規格及び第二編第十章第二節(第五百五十九条から第五百六十一条まで、第五百六十二条第二項、第五百六十三条、第五百六十九条から第五百七十二条まで及び第五百七十四条に限る。)に規定する足場の基準に適合するものとすること。
2 注文者は、前項第二号の点検を行つたときは、次の事項を記録し、足場を使用する作業を行う仕事が終了するまでの間、これを保存しなければならない。
省略

引用元:e-Gov法令検索

脚輪(キャスター)のブレーキ・歯止め、足場の一部を建設物に固定など。
そして、組立し作業開始前に点検・記録が必要。

送検では点検未実施で送検されたのかな?少々不明確です。
特に足場は平成21年と平成27年に労働安全衛生規則が改正され、作業開始前などの点検が、元請と下請の両方で実施する必要があります。

点検・記録は元請が見落としがちな大きなポイントです。

なぜしなかったのか?

記事では天井に突っ張る棒を作業効率のため使用しなかったとしています。

移動式足場は移動させることを前提にしているため、移動のたびに壁つなぎ控えでの固定、控え粋を取り付けしていると、都度時間を要する。

移動の手間時間を減らして、作業時間に充てていた。安全と作業効率の 「トレードオフ」と言えます。

このトレードオフは「安全の切り売り」でもあると言うことを認識しておく必要があります。

安全の切り売りでは、 いずれこのような事故が発生します。

少しくらいなら大丈夫だろう・・・2名までの時は大丈夫だったけど、3名ではダメだった。3mまでの足場の時は大丈夫だったけど、 4mではダメだった。 水平な地面では大丈夫だったけど、ゆるい傾斜地ではダメだった。などなど

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